令和3年6月の話

 六月になると思い出すことがあります。私が中学二年の時の話ですが、当時、飼っていた雑種のワンコが出産したのです。犬の出産ならば珍しい話ではありませんが、その時のワンコの行動は、今考えても不思議なのです。

 そのワンコの暮らしぶりは、昭和の話ですから、首輪をつけて鎖に繋がれて犬小屋で寝るという生活でした。出産の前日も普段通りに鎖に繋がれて、私たちがワンコの前を行き来するのを見ていました。お腹がとても大きくなっていたので、そろそろ産まれるかもしれないと、仔犬の心配をしておりました。出産は夜半未明に始まったようでした。その日は日曜日でした。朝、寝ぼけながら歯磨きをしていると、前坊守から仔犬が産まれたみたいよと、声を掛けられました。ビックリして外へ飛び出ると、犬小屋のところにワンコがいません。あたりをキョロキョロと見渡すと、前坊守が「ここよ」と教えてくれたのは、物置として使っていた建物の床下でした。

 その場所は、犬小屋を置いてある場所から五メートル以上離れているのですが、基礎の一部が壊れていたので建物の外部から床下に入れたのです。いつ下見したのかも不明ですし、出産が先なのか、移動が先なのかも分かりません。仮に出産が先ならば、ワンコが、五頭の仔犬を咥えて引っ越しした。引っ越しが先ならば、産気づいた状態で首輪から抜け出して床下で出産した。どちらにしても不思議なのです。壊れている基礎部分の大きさは、三十センチ四方くらいなので中を覗くことが出来ず、当時、六歳だった弟に中へ入ってもらって仔犬を確認すると五頭の元気なチビワンコがいて、みんなで喜んだことを今でも鮮明に覚えています。母ワンコの生きる力、生きるための知恵を考えると、今でも不思議に思います。その時産まれたワンコは、元気に育ち、「ナッキー、行こ」と娘の初めての二語語に登場するほど優しいワンコで、子供達に生命の素晴らしさを教えてくれました。

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